本来の認識や判断が歪んでしまう「ルサンチマン」-フリードリヒ・ニーチェ

ある日、キツネがブドウの房を見つけて食べようとしますが、ブドウは高い棚に生っており、キツネは手が届きません。キツネは何度かジャンプを試みますが、果実に届くことができず、最終的に失望して去ってしまいます。去り際にキツネは、ブドウが酸っぱいと嘘をついて自分を欺こうとしたと非難します。

概要 – イソップ童話「酸っぱいブドウ」(The Sour Grapes)

上記の内容は、ルサンチマンに囚われた人が示す典型的な反応である。

ルサンチマンを哲学書的に解説すると、弱い立場にある者が強者に対して抱く嫉妬、憎悪、怨恨、劣等感などの織り交ざった感情となる。

より深く捉えようとした場合、こうした感情に分類されない行動や感情までも含めた、少し射程の広い概念となる。

ルサンチマンを抱えた人の反応

ルサンチマンを抱えた人は、その状況を改善するために2つの反応を示す。

原因となる価値基準に隷属・服従する

一例として、周りのみんなが高級ブランドバッグを持っているのに自分だけが持っていない、という状況を想定する。

特別ほしいものではない、自分の価値観には合わない、と捉えブランドバッグを拒絶する人がいる一方で、別の同格のバッグを購入しルサンチマンを解消する、という行動を示す人もあらわれる。

高級車や高級腕時計、別荘やクルーザーなど、手を変え品を変えつつも、同様の出来事が世界で起きている事態は想像にたやすい。

原因となる価値基準を転倒させる

ニーチェはキリスト教を例に挙げている。古代ローマの時代、ローマ帝国の支配下にあったユダヤ人は貧困の中で、富と権力どちらも有するローマ人をはじめとした支配者階級を羨みながら、同時に憎んでいた。

そうしたところで現実を変えるのは不可能であろう、だからユダヤ人は神を創造した。「ローマ人は豊かではあるが、天国に行けるのは貧しく苦しんでいる私たちだ。彼らは天国には行けない。」と、ローマ人よりも上位にあたる架空の概念を造り上げ、想像の中で現実世界の強弱を反転させることで、心理的な復習を果たした。

努力や挑戦ではなく、劣等感を感じる源である要素を否定する価値観を持ち出し、自己肯定につなげるという考え方である。

日常のいたるところで見られる両者のルサンチマン

前者であれば、高級品やブランド品がそれを必要としている市場に提供しているものは、ルサンチマンの解消、とも捉えることができる。

機能としての価値とは別の、記号、とも取れる物に大金をはたくわけで、ということはルサンチマンを生み出せば生み出すほど、市場規模もまた拡大することに繋がる。ブランドや高級車は、毎年のように新しい製品を市場に送り出されているが、これはルサンチマンを常に生み出すため、と考えればわかりやすい。

製造原価を必要としない、かつ無限に生み出せるものに高い価値が付与されているわけで、ということは儲からないわけがない。

後者であれば、フランスレストランがわかりやすい。「高級フレンチなんて行きたくない。サイゼリヤで充分だ。」という言葉は、聞き流せばそれはそれで一つの意見ではありつつ、一般に考えられる「格上と格下という価値観を転倒させてやろう」という意図が明確に含まれる場合もある。

高級フレンチは格式の高いレストランであり、そこに集う人は洗練された趣味と味覚を持っている、という一般的な価値観、さらに言えば、高級フレンチで食事をする人は成功者だ、という価値基準を転倒させてやる、というルサンチマンがうごめいている。

シンプルに、サイゼリヤが好きだ、では感情が落ち着かない。そうした人は上記のような言動をとる。理由は単純で、そうしなければルサンチマンが解消できないからだ。

価値判断の逆転が何を示しているのか

歴史の偉人や哲学者の書籍は、所謂こうしたルサンチマンの概念を含めたキラーコンテンツにより、時代時代における価値判断の逆転を意図しているものが多く見受けられる。

目の前で繰り広げられる価値判断の逆転が、ただただ、ルサンチマンに根ざしているだけのものなのか、より崇高な問題意識に根ざしたものなのかを、見極める判断力が必要である。

より具体的な文脈で表現すれば、ルサンチマンという複雑な感情とそれが喚起する行動のパターンについて、理解が不可欠であるということだ。

フリードリヒ・ニーチェ

フリードリヒ・ニーチェ(Friedrich Nietzsche、1844年10月15日 – 1900年8月25日)は、19世紀のドイツの哲学者、詩人、文化評論家です。彼は西洋哲学の歴史において非常に影響力のある人物の一人であり、その思想は存在主義、ポストモダン哲学、心理学などに多大な影響を与えました。

意志の力: ニーチェは「意志の力」(Will to Power)という概念を重視しました。彼は人間の行動や欲望の根源として意志を捉え、強い意志を持つ個人が自己を充実させ、真の価値を見出すことができると主張しました。

超人(Übermensch): ニーチェは「超人」という概念を提唱し、伝統的な道徳や価値観にとらわれない、自己確立された個人を象徴する存在として描きました。超人は自らの価値基準を持ち、他者の評価や規範に左右されない自由な存在であるとされます。

永劫回帰: ニーチェは「永劫回帰」という思想を提唱しました。これは、宇宙や歴史が永遠に繰り返されるという考えであり、あらゆる出来事や瞬間が永遠に繰り返されるという宇宙の法則を示唆しています。

神の死: ニーチェは「神の死」という有名な表現を用いて、近代の西洋社会における宗教的価値観の崩壊を指摘しました。彼は宗教的信仰の崩壊を前進と見なし、新たな価値観や意味を見出す必要性を訴えました。

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