どのように生きるかという問いに対する答え「アンガージュマン」-ジャン・ポール・サルトル

サルトルといえば実存主義であるが、ではその実存主義とは何か。哲学には「世界はどのように成り立っているのか=Whatの問い」と「どのように生きるべきか=Howの問い」があり、後者を重視する立場が実存主義ということになる。

Howの問いに対するサルトルの答えが、「アンガージュマンせよ」だ。

客観的にではなく主体的にアンガージュマンせよ

アンガージュマンとは英語でいうところのエンゲージメントである。ニュアンスとしては「主体的に関わることにコミットする」という意味合いとなる。では何にコミットするのか。サルトルは下記の2つを挙げる。

  • 自分自身の行動
  • この世界

自分自身の行動「何をするのか、しないのか」

私たちは現代の民主主義社会の世の中において、主体的に選択する権利を与えられている。行動や選択は自由であり、「何をするか」「何をしないのか」という意思決定について、自分で責任をとる必要がある。

サルトルは実存主義において、自由はとても重たいものと位置付けている。曰く、「人間は自由の刑に処されている」。

この世界「戦争は人生の外側のことではない」

私たちは、自分たちの能力や時間、つまり人生そのものを使って、ある「企て」を実現しようとしている。私たちに起きることは全て、その「企て」の一部として引き受けなければいけない。というのがサルトルの主張である。

サルトルは例として戦争を挙げている。戦争を、人生の外側からやってきた事件のように考えるのは間違いで、その戦争は「私の戦争」にならなくてはいけない。

なぜなら私は、反戦運動に身を投じることも、兵役拒否をして逃走することも、自殺によって戦争に抗議することもできたはずなのに、それらをせず、世間体を気にして、あるいは単なる臆病さから、あるいは家族や国家を守りたいという主体的な意思によって、この戦争を「受け入れた」からである。

あらゆることが可能であるのに、それらをせず受け入れた以上は、それはあなたにとっての選択となる。であるからこそ、「人間は自由の刑に処されている」ということだ。

自己欺瞞に陥ることなく現実を捉えよ

私たちは外側の現実と自分を2つの別個のものとして考える癖があるが、サルトルはそのような考え方を否定する。外側の現実は、私たちの働きかけ、あるいは働きかけの欠如によって、そのような現実になっているのであるから、私の一部であり、私は外側の現実の一部ということになる。

両者は切って離すことができない。だからこそその現実を自分ごととして主体的に捉え、良いものにしようとする態度=アンガージュマンが重要となる。

現代の日本における就職先ランキング

多くの日本人は、10代〜20代におけるどこかのタイミングで就職というものを経験する。自分がしたいことを目線に添えて、就職先なんて自由に選べばいいにも関わらず、その自由に耐えられず就職人気ランキングの上位を狙おうとする。

そうした後に、社会や組織から命じられたままに行動し、その期待に応えようする。結果としてどのような事態が待ち受けているかを、私たちは知っている。

選択するということを自分自身で決定すること

社会や組織からの期待に応え成果を出すことが「成功」として考えられがちであるが、サルトルは「そんなものはなんら重要ではない」と断定する。

自由であるということは、社会や組織が望ましいとするものを手にいれることではなく、選択するということを自分自身で決定することだ、とサルトルは指摘する。

目の前の何かから突きつけられるモノサシにより自己欺瞞に陥ることなく、自分自身の人生を完全な自由から生まれる芸術作品のように創造することで、初めて自分としての可能性に気づくことができるとサルトルは言います。

ジャン・ポール・サルトル

ジャン=ポール・サルトル(Jean-Paul Sartre, 1905年6月21日 – 1980年4月15日)は、フランスの哲学者、小説家、劇作家、政治活動家です。彼は実存主義と呼ばれる哲学思想の代表的な人物の一人であり、特に人間の自由、責任、そして存在の意味についての議論で知られています。

主な思想

サルトルは、「人間は自由の刑に処されている」と主張し、私たちは自分の選択と行動に全面的に責任を負わなければならないと考えました。彼の哲学は、実存は本質に先立つという考え方に要約されます。つまり、私たちの存在(実存)は、あらかじめ決められた本質(定義や目的)に基づくものではなく、私たちが自分で決めるという自由から生まれるものだということです。

代表作

存在と無(L’Être et le Néant, 1943年):サルトルの哲学の中心的な著作で、存在と意識、自由意志、自己欺瞞(mauvaise foi)などを詳細に論じています。

嘔吐(La Nausée, 1938年):主人公が存在の不条理や空虚さを経験する過程を描いた小説です。

壁(Le Mur, 1939年):短編集で、戦争や人間の自由をテーマにした作品が多く含まれています。

出口なし(Huis Clos, 1944年):有名な舞台劇で、「地獄とは他人のことだ(L’enfer, c’est les autres)」という言葉で有名です。

政治活動

サルトルは、第二次世界大戦後にフランス共産党に共鳴し、マルクス主義の視点を取り入れた政治的な活動家でもありました。彼はアルジェリア戦争やベトナム戦争に反対し、公民権運動などの社会正義を支持しました。彼の思想には、社会的・政治的な現実との関係が強く反映されています。

その他の影響

1964年にノーベル文学賞を受賞するも、「作家は権威に縛られるべきではない」との理由で辞退しました。彼の哲学と文学は、20世紀の哲学や文学、政治に大きな影響を与え続けています。

サルトルの思想は、個人の自由や選択の重要性を強調する一方で、それに伴う責任や不安にも焦点を当てています。

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